医療コラム

いびきと交通事故 ~睡眠時無呼吸症候群について~

いびきと交通事故
~睡眠時無呼吸症候群について~

独立行政法人国立病院機構 西新潟中央病院
日本呼吸器学会認定 呼吸器専門医 伊藤実

 

いびきと交通事故は全く関係ないと思うかもしれませんが、大いに関係があります。それは、睡眠時無呼吸症候群(以下SAS)という病気を知ることで理解できます。


SASは、文字通り睡眠中に呼吸が止まるのですが、呼吸が止まってそのまま死んでしまうのではなく、気道が閉塞し一時的に呼吸が止まり、覚醒と共に呼吸が再開する、ということを一晩中繰り返す病気です。この覚醒は、脳波上で確認されるだけで本人は自覚していないため、一晩中ぐっすり眠ったつもりでも、眠くて食事中や運転中にまで居眠りしてしまいます。


仕事の意欲が低下し、うつ病と診断される方もいます。以前ニュースになった新幹線の運転士の居眠りがSASによるものであったことが判明してから、SASがより注目されるようになりました。交通事故原因として、SASによる居眠りが非常に多いことも分かっています。また、頻回な呼吸停止のため心血管系に負担がかかり、不整脈、心筋梗塞、脳梗塞などにより突然死する危険性が高いことが知られています。


いびきをかいていると良く眠っていると思いがちですが、いびきというのは、空気の通り道である気道が閉塞しかかっている状態であり、SASの患者さんに多い症状です。寝不足でもないのに日中眠い場合はSASを疑います。


SASは、肥満により上気道へ脂肪が沈着することにより発症することが多く、メタボリックシンドロームとも関係が深い病気です。やせていても生まれつきの骨格の関係で発症してしまう方もいます。中等症以上の場合、CPAPという、鼻につけたマスクから空気を送り気道を広げて無呼吸を防ぐ方法が最も有効性が高く、保険適応となっています。CPAPにより症状が劇的に改善する方もいらっしゃいますし、きちんと使用できれば突然死の危険性は健康な人並みに減ることが分かっています。


いびきをかく方、居眠り運転で事故を起こしたことのある方、血圧が高い方などは、一度SASの検査を受けることをお勧めします。呼吸器専門の医療機関で精密検査・治療を受けることができます。


*SAS=睡眠時無呼吸症候群